サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回のテーマは、「原口元気のゴールをも止めた白い悪魔」。
■試合途中にボールが「破裂する」アクシデントも
ピッチは選手たちの奮闘で雪と泥沼が混じり、シャーベット状になった。そして降り続ける雪は、そのシャーベットにまた白いベールをかけた。
サッカーと呼べるものではなかった。欧州チャンピオンと南米チャンピオン。FCポルトには、ポルトガル代表だけでなく、アフリカきっての名手とうたわれたアルジェリア代表のラバー・マジェールや、ポーランド代表の名GKユゼフ・ムイナルチクがいた。ペニャロールは若いチームだったが、半数はウルグアイ代表のレギュラーだった。
そうした世界的な名選手たちが、ただただ目の前にきたボールを前に蹴った。ボールが「シャーベット」に捕まって止まると、最初に追いついた選手は足先でボールを浮かせ、空中にあるボールを前に蹴った。追ってきた選手はターンもできず、すべって転んだ。「サッカーと呼べるものではなかった」と書いたが、もしかすると、これが「サッカーの原点」だったのかもしれない。
試合途中には、使用球が破裂するというアクシデントがあった。よく「寒さのせい」と説明されるが、摂氏1度ぐらいの寒さでボールが破裂することなどありえない。実際には、試合前、雪が強くなったのを見て日本サッカー協会があわてて協会事務所から持ってこさせた「黄色・黒」のボールが不良だったためだった。
このボールは何年も前に協会がメーカーからもらい、倉庫に保管していたものだった。「雪の試合のために」と、白黒ボールの白いパネルが黄色いパネルなっていた。当時試合の公式球はすべて「手縫い」だった。劣悪な保管状況のためにパネルを縫い合わせた糸が劣化していたのである。その糸が切れ、内部のゴムチューブがはみ出てしまったというのが、真実だった。