■原口元気「起死回生のゴール」は悪魔の雪に
ボールを転がす「天使の雪」もあれば、シュートを止めてしまう「悪魔の雪」もある。「被害者」は原口元気。2019年3月、ブンデスリーガのハノーファー96でプレーしていたときの「事件」である。
ビジターチームはバイエル・レバークーゼン。前半なかばまでに0-2と苦境に立たされたホームのハノーファーだったが、33分、原口が起死回生の「ゴール」を決めたかに思えた…。
試合開始後に降り始めた雪が、ピッチを白く覆い始めた時間帯だった。GKミヒャエル・エッサーのロングキックがレバークーゼン陣のペナルティーエリア近くまで飛ぶ。前進してきたGKルーカス・フラデツキーに任せようとしたレバークーゼンDFジョナタン・ターがスピードを落とした瞬間に原口が体を入れ、ボールを押し出すとフラデツキーを右にかわし、すかさず右足で無人のゴールに向けてボールを送り込んだ。
完璧なシュート…のはずだった。ペナルティーエリア内、右45度、ゴールまで17メートル。体を倒しながら原口が右足で送り出したグラウンダーのボールは、強くゴールの中央に向かっていった。だがゴールまで3メートルのところで急激に速度が落ちる。薄く積もった雪につかまったのだ。そしてどんどん遅くなり、ついにゴールまで30センチのところで止まってしまったのだ。いったんあきらめたターがあわててこのボールを拾い、クリアした。
このとき、すでに原口は両足でひざまずきながら5メートルも滑っていた。シュートした勢いで倒れ、そのまま白雪の上を滑ってしまったのだ。ゴールが決まっていれば「世界で最も早いひざ滑りゴールパフォーマンス」になったかもしれない。しかし、マジェールに味方した雪は、原口には突然現れた「2人目のGK」だった。左ひざを立てて立ち上がりながら、原口は信じられないといった表情でボールを見つめていた。