■「デビュー戦」を預かった日本人審判
この種のスプレーが初めて考案されたのは、1980年代のイングランドだったという。考えたのは、先日他界したイングランド・サッカーのレジェンド、サー・ボビー・チャールトンと、ひとりのレフェリーだったらしい。だがイングランド・サッカー協会から相手にされず、商品化には至らなかった。
それから10数年を経て、ブラジルの発明家エイネ・アレマーニュという男性が「Spuni」というスプレーを発明、2001年からブラジルの国内大会で使われるようになった。しかし世界に大きく広まるきっかけをつくったのはアルゼンチンのパブロ・シルバが開発した「9-15」という製品だった。この製品はアルゼンチン国内で広く使われるようになり、ついにはFIFAが採用、2013年のクラブワールドカップ(モロッコ)でテスト使用され、2014年のワールドカップ・ブラジル大会で正式に使用された。
2014年ワールドカップの開幕戦、ブラジル対クロアチアを担当したのは、日本の西村雄一主審である。この大会はボールがゴールインしたかどうかを判定する「ゴールライン・テクノロジー(GLT)」の初導入が大きな話題になっていたが、この試合ではその出番はなかった。その代わり、西村主審がゴールに近いFKのたびに引くスプレーの線が世界中のファンの目を引いたのだった。
Jリーグも、2017年からバニシング・スプレーを導入した。芝生を傷めない成分を用いた国産の「FKマジックライン」が完成したからだ。外国の製品を使うと、その部分の芝生が黄色く変色してしまっていたのだ。以来、バニシング・スプレーは国内の主要大会で使われている。1本120グラムのものを、Jリーグの審判員は2本用意して試合に臨むという。