■人間の偉大さを量るもの
荒井さんの実家は、横浜で何代も続くお寿司屋さんだった。ある冬、そのお寿司屋さんから出火し、商店街の他の店にも被害が及ぶという出来事があった。その知らせを聞き、当時まだ『サッカーマガジン』の編集部にいた私は、会社からの見舞金を手に火事見舞いに行った。火事場の片づけ作業の手を休めて出てきてくれた荒井さんは、厳しい表情で、短く、強く、ただひとことこう言った。
「面目ない」
店を仕切っていたのは、もちろん荒井さんではなく、お父上だった。しかし荒井さんはその責任を百パーセント自分自身のものとして背負っていた。
人間の偉大さは、大きな試練に遭ったときにわかる―。このとき、私は、荒井義行さんが本当に立派な人であることを理解した。そしてこのときの言葉と荒井さんの表情を一生忘れまいと思った。
戒名・義徳慧観信士。荒井さんは確かに「サッカーの未来」を見通していた。
合掌。