■日本にはなかったもの

 そういえば、最近はすっかり見かけなくなりましたが、僕がヨーロッパに行くようになった頃には、あちらの古いホテルには金属の籠状の「カゴ」が使われていました。安ホテルだけでなく、高級ホテルにもありました。

 エレベーターが上下する筒状の空間(昇降路)も金属の「籠」でした。つまり、外から見ていると籠状の昇降路のなかを、籠状の「カゴ」が上下しており、乗っている人たちが見えるのです。乗っている人たちからも、周囲の人たちや各階の床板や廊下など、外が丸見えなのです。

 乗り込んだら、「昇降路」側に付いている外扉と「カゴ」に付いている内扉を閉めないと、エレベーターは動きませんが、その外扉も内扉もすべて金属で編んだものでした。

 金属製の箱よりも、網上の「籠」にした方が軽くできるからこういう構造になっているのでしょう。

 最近はそういう旧式エレベーターもあらかた引退してしまったのでしょうか。ヨーロッパに行っても、あまり見かけなくなりました。

 僕が子供の頃にも(つまり、60年前にも)、日本にはそういう(全網目状の)エレベーターは(僕が知っている限り)なかったので、エレベーター内からは金属製の箱の内壁が見えるだけでした。老舗デパートなどには、内扉が網目状のものもありましたが、外扉も網目状で外が見える形式はなかったように記憶しています。

 ですから、初めてヨーロッパに行って、そういう「籠」状のエレベーターを見た時には驚きました。

  1. 1
  2. 2
  3. 3