■遠藤航から受けた言葉

 その22-23シーズンもコンスタントに試合に出ていたが、ゴールやアシストなどの数字がついてこない。本人は成長の実感をあまり持てないことへの苛立ちも垣間見せていた。

 その真っ只中で迎えたカタールW杯本番。ドイツやクロアチアと対峙していく中で「ここにはもう化け物しかいない」と彼は痛感。「今度は自分が化け物になってここに戻ってきたい。そして優勝したいなと思います」という野心も芽生えた。

 そうなると、向上心の強い田中碧はガムシャラに上へ上へと這い上がろうとするはず。実際、昨季後半戦ではそんな姿勢を見せていた。だが、チームはまたも1部昇格レースから離脱。苦境に追い打ちをかけるように、彼自身もシーズン終盤に長期離脱を強いられた。不完全燃焼のドイツ2シーズン目が終わってしまったのである。

 この状況では、個人としてのステップアップも難しくなる。今夏にはイングランド2部・リーズやドイツ1部・シュツットガルトへの移籍話が浮上したが、進展のないままマーケットが閉まってしまった。彼の落胆は非常に大きかった模様で、クラブ側もメンタル面を考え、8月28日のエルフェアベルク戦、9月1日のカールスルーエ戦での起用を見送っている。

「30でリバプールへ行けるんだから、お前なんか全然チャンスがある」と代表期間中には遠藤航(リバプール)から励まされたというが、欧州5大リーグのトップに上り詰めるのは本当に難しい。ただでさえ、ボランチは屈強かつ大柄な選手が好まれる欧州にあって、田中碧のようなパス出しや展開、リズムを作る力に長けたタイプは評価されにくい傾向にある。日本人ボランチがなかなか欧州で成功できないのはそんな背景があるだけに、田中碧の場合もいばらの道と言えるのだ。

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