■ボールの性質とは
――「止める」という技術がすべての基本で非常に重要とのことですが、それを習得するために必要な練習法はありますか。
練習前の準備段階の話ですが、私が指導してきたチームでは、ユースやプロのチームでも、グラウンドに出てきたらまずは選手たちが自発的に“対面パス”をやっています。そこで、自分の場所にボールをピタッと止める感覚をつかんでいる。ボールを止めるというのは、非常に繊細で難しい技術なので、毎日、継続しないと意味がありません。
加えて、対面パスでは、「蹴る」の感覚も意識させます。例えば、短い距離に速いパスを出したければ、ボールの真ん中を叩いて、回転しないボールを出す。そういった「ボールの性質」を理解したうえでの蹴り方を、何度も何度も、感覚として足に染みこませます。
これで、ようやく準備完了です。この「止める」「蹴る」の準備ができた選手でないと、練習のスピード感についていけません。
――「ボールの性質」とは具体的にどういうことなのでしょうか。
たとえ、初心者が蹴ろうと、メッシ選手が蹴ろうと、ボール自体の性質は変わりません。なので、ここを蹴ればこう動くという、ボールの性質を理解することが重要です。
ただし、足の形やサイズは、人それぞれなので、蹴り方に共通の教え方はありません。足のどの場所でボールのどの位置を触るかは、日々の練習でつかんでいくしかない。例えば、私は足のかかとで、ボールの中心を蹴ると速いパスが出せます。また、足の親指の付け根で、ボールの上部を触ると、どんな場所でもピタッとボールを止めることができる。教えられるとしたら、ボールを受けてパスをするときの体の使い方、蹴るフォーム、こうやったらもっと素早く強いパスが出せるといった、細かい修正点だけです。
そういった意識をもって練習を積み重ねることで、サッカーの基本動作が正確に、流れるようにできるようになり、さらには選手たちそれぞれが自分流に独自に発展させていきます。大切なのは、メッシ選手の動きを真似るのではなく、サッカーの本質を学ぶことですね。
#3「将来の三笘薫をつくるサッカー改革」に続く。
かざま・やひろ
1961年10月16日、静岡県生まれ。清水商業高校時代に日本ユース代表として79年のワールドユースに出場。筑波大学在学時に日本代表に選出される。卒業後、ドイツのレバークーゼン、レムシャイトなどで5年間プレーし、89年にマツダ(現サンフレッチェ広島)に加入。97年に引退後は桐蔭横浜大学サッカー部、筑波大学蹴球部、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。2021年よりセレッソ大阪のアカデミー技術委員長に就任。