女子ワールドカップではベスト8で敗れたものの日本代表の快進撃が話題となる一方、見逃せない大きなトピックがあった。これまでの「絶対女王」アメリカ代表がラウンド16で敗れたのだ。女子サッカーをけん引してきた強国の早期敗退は何を意味するのか。サッカージャーナリスト・大住良之が世界の潮流を探る。
■女子サッカーの大変貌
サッカーのアメリカ女子代表は国内の女子スポーツで最も大きな注目を集める存在である。ワールドカップとオリンピックを通じて8回の世界制覇を成し遂げた選手たちは少女たちのアイドルであり、女子代表の試合はアメリカ・サッカー協会に男子代表に勝る利益をもたらしている。
そうした事実を背景に、2016年からアメリカ代表選手たちが起こした「男女代表平等の報酬を」という活動は2022年に最終決着し、完全平等の報酬が実現した。これは世界のスポーツ史でも大きなトピックと言える。ただ、追随する国も出始めているが、どこまで世界に波及するのか、まだ不透明と言える。
こうして「女王」の座を保ち続けてきたアメリカの女子サッカーが、今回のワールドカップでその地位を追われることになるのだろうか。試合の内容はともかく、結果としてはベトナムに勝っただけで欧州の3チームにはすべて引き分けだったという事実は、明らかに過去10年間の世界の女子サッカーの動向を反映している。
欧州の女子サッカーは、過去10年間で大変貌を遂げた。原因はビッグクラブの女子サッカーへの投資である。日本円にすると年間1000億円以上の売り上げを計上するようになった欧州のビッグクラブ。そうしたクラブが、主にマーケティングのために女子サッカーに投資を始めたのだ。
欧州の女子チャンピオンズカップの準々決勝以降や女子欧州選手権の決勝戦では数万の観客を集めるようになった女子サッカーだが、各国の国内リーグで入場者が1万人を超すことは希にしかない。現時点では、女子サッカーはクラブに利益をもたらすものではない。しかしクラブのファン層を広げるための「マーケティング」という面においては、非常に有効な手段と考えられている。