大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第112回「カップかトロフィーか」(4)ワールドカップを待ち受ける「2042年問題」の画像
1882年にデザインされた初代ワールドカップ(もちろんレプリカ)。ボールを足元に置いた選手がつけられた「フタ」、純銀製の「カップ」、そして木製の台座からなる。このスタイルが大会形式とともに世界に広まった (c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回はキャプテンがこれを両手で持ち、チーム全員で「ウ~~~、ワッ!」という瞬間が至福。

■盗まれたワールドカップ

 1966年、「サッカーの母国」イングランドで第8回ワールドカップが開催されたとき、大変なことが起こった。イングランド協会はFIFAから1月に「ジュール・リメ・カップ」を受け取っていたのだが、一般の関心を盛り上げようと、3月19日土曜日からロンドン都心ウェストミンスター寺院の展示場で一般公開を行った。制服の警備員2人がカップの周囲を歩きながら警備し、さらに私服の警備員も加え、万全の警備体制が敷かれていたはずだった。

 ところが翌3月20日の日曜日午前中、この展示場は英国国教会の恒例の礼拝に使用され、展示公開が始まる昼過ぎに警備員が到着すると、展示ケースがこじ開けられ、カップは消えていたのである。スコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)を挙げての大捜索となったが、見つかったのは1週間後、見つけたのは1匹の犬だった。

 犬は白と黒の毛をもった4歳のコリーの雑種で、名前を「ピクルス」と言った。飼い主のデービッド・コルベットに引かれて、というよりコルベットを引っぱりながら、ロンドン南西部の住宅地で朝の散歩を楽しんでいたピクルスが小さな植え込みの中に顔を突っ込むと、ヒモが巻かれた新聞紙の包みを引っ張り出してきた。家に戻ってコルベットが包みを開けると、出てきたのがこのところ新聞のニュースを独占している「ジュール・リメ・カップ」だったのだ。彼はピクルスを朝の散歩に連れていったパジャマのズボンのまま、近くの警察署に駆け込んだ。

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