だが、名古屋はなかなか攻撃の形を作れなかった。
相手のブロックを崩すには、たとえばウィングバックが中のポジションをとるとか、3人のセンターバックのうちの誰かが攻め上がるなどの変化を付けたいのだが、鹿島の前線の4人が忠実な守備で相手CBの攻撃参加を規制し続けた。
たとえ相手に対応されていたとしても、名古屋のCBはもっと強引にでも攻撃に出るべきだった。無理に攻撃に出れば自分たちのバランスを崩してしまうリスクは生じるが、相手の守備を崩すためには、リスクを冒す覚悟がなくてはいけない。
いずれにしても、ピッチ上では90分間にわたって激しい、しかし戦術的に非常に緻密な攻防が繰り広げられたのである。
30年前の日本チームには、そんな戦い方はできなかった。
■外国人監督の指摘
かつて「日本のサッカーは勝負弱い」と言われていた。
Jリーグ初期の名将、スチュアート・バクスター(サンフレッチェ広島などで監督)には「日本人選手はリードすると急にプレーできなくなってしまう」と言われ、日本代表のフィリップ・トルシエ監督には「日本には守備の文化がない」と言われた。
実際、1993年のアメリカ・ワールドカップ最終予選最終戦ではせっかくの1点のリードを守りきることができず、イラクに同点に追いつかれてワールドカップ出場権を手放してしまった。
それから30年。Jリーグでは勝負のかかった激しい戦いが続き、今では互いに相手のストロングポイントを消し合って戦う、プレー強度が高く、かつ戦術的に緻密なサッカーが展開されるようになった。
昨年のカタール・ワールドカップでは強豪ドイツやスペインに日本代表が勝利した。しっかりとした守備で我慢強く戦って最少失点に抑え、カウンターから得点を積み重ねて勝利をもぎ取ったのだ。