サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は「野生への回帰?」。
■思わず久保も…
ことし1月、スペイン・リーグ、アスレティック・ビルバオとの「バスク・ダービー」でゴールを記録した久保建英(レアル・ソシエダ)が、歓喜のあまりシャツを脱ぎ、広告看板の上に立ち、サポーターのところに飛び込んでいったのには驚いた。
いつもクールな久保にもこんな面があったのかと思ったのだが、その一方で、流ちょうなスペイン語を話し、考え方までスペイン人になってしまったのではないかと思っていた久保も、「日本人だったんだ」という、どこかほっとした感想もよぎった。もちろん、久保はイエローカードを受けた。
韓国や中国の人びとが日本人にあきれ、あるいは野蛮に思うのは、日本人が人前ですぐに裸になることだと、司馬遼太郎がどこかに書いていた。日本人には、酒席などで、興が乗るとすぐに裸踊りをする人がいるが、儒教の民である韓国や中国の人にとってはとても恐ろしいことらしい。
中国には、「肉袒牽羊(にくたんけんよう)」という言葉がある。「肉袒」とは上半身を脱いで裸になることで、どんな罰でも受けるという降伏の意思を示すこと、そして「牽羊」とは、文字どおり羊を引くという意味で、料理人になって仕えたいという気持ちを表しているという。要するに、シャツを脱いで裸になるのは、「降参」の印であり、忌み嫌われることなのだ。
孫興民(ソン・フンミン)はおそらくアジアが生んだ史上最高のサッカー選手であり、先日プレミアリーグ通算100ゴールという快挙を成し遂げた。だが100回ゴールを決めても、彼はシャツを脱いだことなどいちどもない。韓国人としては当然のことなのかもしれない。彼はただ走り、ひざでスライディングし、ときにカメラのポーズをし、満面の笑顔でチームメートと喜び合う。
だが久保に限らず、世界中で得点後の歓喜のなかでシャツを脱いでしまう選手は跡を絶たない。それがルールではっきりと「警告されなければならない」と書いてあるにもかかわらず…。