大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第102回「ペナルティーエリア その絶妙な存在」(3)元ブラジル代表が語った「天国と地獄」を分かつラインの意味の画像
幅44ヤード、深さ18ヤード。私(ペナルティーエリア)をめぐる争いが「サッカーのすべて」と言っても過言ではない (c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回はゴール前の大きな四角。ペナルティーエリアが自らを語る。

■「天国と地獄」ほどの差

 さて、私が誇らしく思うのは、私の中と外では「天国と地獄」のように大きな違いがあるからである。

 サッカーで何より大事なのは「ゴール(得点)」である。この競技は、相手陣、真っ白な枠で囲まれた8ヤード×8フィート(7.32メートル×2.44メートル)の空間にボールを通した回数が多いチームが勝ちとなる。パスを何本つないだか、相手より長時間ボールをもっていたか、シュートを何本打ったか、CKが何本あったか、ドリブルで何人相手を抜いたか…。そのどれも、勝敗にはまったく関係がない。何回ゴールしたかだけが、勝者と敗者を分ける。そして、ゴールを取るためには、何としても私のなかにはいらなければならない。

 「ロングシュートがあるだろう」って? もちろん。でも次の数字を見てほしい。昨年末に世界のサッカーファンを喜ばせた大会、ワールドカップ・カタール大会でのデータだ。この大会の64試合で生まれたゴールは172。この数字は大会史上最多だったが、うちセットプレーからが46ゴールあった。CKからが16ゴール、FKからが13ゴール、そしてPKからが17ゴール。これを除いた「オープンプレー」からの126ゴールの内訳を見ると、116ゴールが私(ペナルティーエリア)の中からのもので、いわゆる「ロングシュート」を含む私の外からのシュートでゴールになったのはわずか10本、7.9%に過ぎなかった。

 すなわち、私の外から放つ11本のシュートは、私の中から放つ1本のシュートに及ばないという事実である。あなたは、この数字に驚くだろうか、それとも、「当然だ」と思うだろうか。

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