■「サッカーの知恵」を感じさせる言葉
日本サッカーリーグ時代(1965~1992年)の日産自動車(今日の横浜F・マリノス)の練習グラウンドで、加茂周監督がブラジルから来たばかりのDFオスカーと話しているのを聞いて、感銘を受けた記憶がある。オスカーは元ブラジル代表で、日本リーグ時代の最大の大物、ワールドクラスの選手だった。私が感心したのは、ブラジル・サッカーが培ってきた「サッカーの知恵」のようなものだった。
加茂監督「オスカー、この(私の)ラインはどういう意味をもつのか」
オスカー「ここから中には相手を入れてはいけないという印です」
DFたちは、意識的にではなくても、「絶対この中に入れてはいけない」と思い、必死の守備をしてくる。だからといって私の前でばかりシュートを打ってしまうようなストライカーは、けっしてチームを勝利に導くことはできない。コンビネーションなどチームの攻撃練習は、いかにして私の中に侵入するかの手練手管を磨くものだ。そして私の中でその最後の仕上げをするのがストライカーの仕事なのではないか。
サッカーの歴史のなかで、ゴールを大きくしようというアイデアが出されたことはあった。だが私の大きさを変えようという話は聞いたことがない。もし私が生まれ変わっても、やはり幅44ヤード、深さ18ヤードという大きさになるに違いない。私という存在は、それほど完成されたもの、「神」から与えられた大きさと言っても過言ではない。
今日、私、ペナルティーエリアは、第一義には「この中で反則をしたらPKという地域」を示すものであり、第二義として「GKが手を使える地域」を示している。しかし私自身は、「ゴールを挙げる決定的な地域」という、あまり世間には意識されていない第三の意味こそ、私自身の根源的な価値であると考えている。
私が「サッカーで最も大事なエリア」と自負する理由を、ご理解いただけただろうか。