■シュート練習での不思議

 どんなレベルの試合でも、試合前のウォーミングアップで、選手たちは必ずシュート練習をする。Jリーグのクラブでは、多くの場合、私の少し外にコーチが立ち、選手はそのコーチに短いパスを出し、落としてもらったところを、すなわち私の外からシュートする。ゴールにはもちろんGKがいる。このシュートが実にはいらない。ゴールの枠を外れるか、GKに防がれるか。決まるのは、せいぜい10本に1本程度だろう。

 ごくたまに、コーチが横、あるいは少し後方にボールを流すことで、シュートのポイントがわずかに私の内側にはいるようにしているチームがある。そうしたチームはこの練習で実によくゴールを決めるのである。

 どうやら、私の外と内では、ゴールの枠内にける確率も、そしてGKに防がれる確率も大きく違うらしい。私の印象では、ゴールから離れる距離に従ってゴールの確率が低くなるのではなく、私の外と内で極端に違っているのである。わずか1~2メートルほどの差で大きな違いが出ることは、サッカーという競技の最大のミステリーではないだろうか。それほど、「18ヤード(16.5メートル)」という設定はよくできているのである。1902年にここに明確な線を引き、幅もゴールポストから18ヤードとしたことが、サッカーという競技の「マジック」を生んだとは言えまいか。

 であれば、ストライカーというものは、私という存在にもっともっとリスペクトを払うべきだと、自分自身のことながら、思うのである。私の中にボールを持ち込み、あるいは私の中でボールを受けて、シュートを打つ練習を、ストライカーは徹底的にすべきだろう。ロングシュートの練習もときどきは必要かもしれないが、私という存在を無視し、外から力いっぱいけってゴールの枠を外したり、GKにやすやすと防がれるシュートばかり打っているのを見ると、「ゴールを決める練習」ならぬ「ゴールを外す練習」をしているようにさえ思えるのである。

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