■スタジアムが消えても残る記憶

 クラブの取材の合間に行ってみました。

 クラブが新スタジアムに移転した後、ショッピングモールを建設する計画があったのですが、幸い(?)計画が暗礁に乗り上げてしまい、移転から15年が経過した2012年になってもスタジアム跡はそのまま空地になっており、ゴール裏にはスタンドの一部も残されたままになっていたので昔のスタジアムの面影を偲ぶことができました。

 ちょうど通りかかった30歳代の男性に声をかけ、「ここ、スタジアムだったんだよね?」と確かめました。すると、その男性はこう言ったのです。

「そうさぁ、俺は5歳んときから親父に連れられて毎週通ってたんだぜ」

 ちなみに、「ヴィクトリア」というのは19世紀に大英帝国に君臨した女王の名前なので、その由来も気になったのですが、実はグラウンドが建設された当時、そばに「ヴィクトリア」という名前のパブがあったから、なんだそうです。

 さて、現在ヴィクトリア・グラウンドの跡地は住宅街として再開発されています。そして、街路にはボブ・マクグローリー(スコットランド代表DF=1935年から1952年まで監督)やポール・ウェア(イングランド代表MF=1980年代から90年代に在籍)といったかつての名選手、名監督の名前が付けられています。

 サッカー文化が根付いたイングランドでは、廃スタジアム跡は大切にされ、そこがかつてのフットボール・グラウンドだったことの記憶を大事にしているのです。

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