■まれに見るトリックFK
その最後のチャンスに、オランダが見せたFKが、ワールドカップ史上では見たことのない驚くべきトリックだったのだ。
ゴール正面からやや左、ゴール幅からはわずかに外れているが、ペナルティーアークから2メートル外、左ポストまで21メートル、右ポストまで23メートルのFK。オランダにメッシがいたら、百パーセント自分自身の左足に賭けただろう。いや、メッシでなくても、オランダにもこの距離のFKを決める力をもったプレーヤーには、当然こと欠かなかった。
アルゼンチンは5人の選手で左ポスト側を隠すように壁をつくり、その背後にはMFアレクシス・マカリテルが寝そべって低いシュートに対処する。
オランダは圧倒的なヘディングの能力を誇るキャプテンのファンダイク(195センチ)とDFユリエン・ティンバー(179センチ)をファーポスト側に配置し、直接狙うだけでなく、小さなロブを上げてそこに飛び込ませる構えも見せる。アルゼンチンはすでに1センチでもカバーの高さを確保しようと、長身選手を「壁」のなかに入れてしまっている。オランダの2人にはMFリサンドロ・マルティネスとDFニコラス・タリアフィコがマンマークでつく。身長は175センチと172センチ。ファンダイクと比べると、大人と子どものように見える。「ミスマッチ」は明らかだ。
オランダはさらにアルゼンチンの5人の壁が「消し残した」右ポスト側を隠すように3人の選手が壁のような立ち方をする。相手GKの視野を遮り、キックへの反応を遅らせるためによく使われる手法だ。だがアルゼンチンGKエミリアーノ・マルティネスは5人と3人の壁のわずかな隙間を見つけてボールを視野にとらえた。