■「サッカーは好きだけど、仕事が忙しいから」

 この運転手はラムさんという44歳の男性だ。「どのくらい飛行機に乗るの?」と聞いてきたので、今から乗るのは9時間半であること、でも、日本からだと11時間かかることを伝えると、驚きながら、「そんなに乗るのいやだな。僕は4時間だよ」と教えてくれた。

 聞けば、彼の故郷はネパールだという。カタールは移住者で支えられている国だ。人口260万人のうち、230万人が海外からの労働者である。そういう意味で、ラムさんは典型的なカタールの住人ということになる。

 彼は話を続ける。「僕の家族は日本の試合すべて見たよ。すごかったって話してた」。笑顔で言う彼に、スタジアムで見たのか尋ねると、家族はすべてモニター超しでの観戦だったという。そして、ラムさん自身はW杯の試合を1試合も観ていないそうだ。「サッカーは好きだけど、仕事が忙しいから」とハンドルを切る動きをエアーで大げさにしてくれた。

「じゃあ、家に帰ったら家族からどんな試合だったか聞くんだ?」と尋ねると、「いや、電話だよ。家族はネパールにいるから」という。妻と3歳になる娘が、母国のボカラという町にいるらしい。「山と湖がきれいなんだ」。彼はそう言いながら、高架下の交差点を滑らかにハンドリングした。

 ネパールに帰るのは2年に1回。この生活を続けて15年になる。最初にドーハに来たのは20歳の時で、その後、サウジアラビアなどでの生活を経て、再びドーハに戻ってきた。いわゆる出稼ぎで、ネパールに住む家族のために、中東でハンドルを握っているのだ。

PHOTO GALLERY ■【画像】「サッカーは見れないけど、家族への仕送りができて幸せ」と語る、ラムさんが運転するタクシーの中から見た景色■
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