■「自分たちが主導権を握るチーム」でプレーする日本人選手は…
ひるがえって、日本代表である。
ドイツ戦とスペイン戦では、前線からのハイプレスで試合の主導権を奪い取り、それだけでなくゴールも取りきった。どのゴールも偶然ではなかった。
得点シーン以外の好機はどうか。
そもそも、チャンスと呼べるものはさほど多くない。
ドイツ戦なら70分過ぎに、酒井宏樹が至近距離から狙った場面があった。コスタリカ戦は後半開始直後に連続攻撃からゴールへ迫った。スペイン戦は2対1とリードした直後に、三笘薫の突破から浅野拓磨がフリーでシュートする場面があった。
クロアチアとのラウンド16では、前半40分過ぎに決定機をつかんでいる。遠藤航がペナルティエリア手前から縦パスを入れ、鎌田大地が相手をかわして右足でフィニッシュした。確実に枠へ持っていきたい場面だった。
相手GKがセービングで防いだ場面はもう少し多いだろう。ただ、得点シーン以外でゴールをはっきりと予感させたシーンは、それほど多くなかった。
なぜか。
「こうなったらこうする」というイメージの共有が、限られていたからだった。日本の攻撃は「再現性」が乏しかった、と言うこともできる。
これについては、選手たちが過ごす日常と無関係でない。
欧州各国リーグに散らばっている日本人選手のなかで、自分たちが主導権を握るチームでプレーしている選手は多くない。アーセナルの冨安健洋、フランクフルトの鎌田、レアル・ソシエダの久保建英くらいだろうか。スポルティング・リスボンの守田英正も、そうしたサッカーを日常としている。
彼らのチームも守備に軸足を置くことはあるが、自分たちでボールを持つサッカーをしている。セルティックの前田大然も同様だが、欧州の舞台では苦戦を避けられない。
彼ら以外の日本人選手が、ポゼッションをしながら相手を崩すサッカーをしていない、と言うつもりはない。ただ、そういうサッカーをしているとしても、チーム内で攻撃の中心になっているかどうかを問うと、そうではない選手のほうが多い。
「ここは攻める時間だ」とか「ここでいく」といった方向性を示すよりも──それはメッシやモドリッチのような役割を担っている選手だ──中心たる選手のシグナルを受けて動く、という立場の選手が多いのだ。