■国民が好む勝ち方

 アルゼンチンのサッカー・ファンにとって忘れられない試合の一つに、1990年のイタリア・ワールドカップのラウンド16でのブラジル戦がある。

 頼みのディエゴ・マラドーナは膝の負傷など満身創痍でほとんど動けない状態で、アルゼンチンは試合開始からブラジルの猛攻を浴び続けた。しかり、GKのセルヒオ・ゴイコエチェアが神がかったセービングを連発。また、ブラジルのシュートは何度もゴールポストやクロスバーに嫌われた。

 そして、81分にそれまで死んだふりをしていたマラドーナがドリブルでブラジル陣に進入する。すると、ブラジルのDF4人がマラドーナに引き付けられ、マラドーナからのパスを受けたクラウディオ・カニージャはまったくのフリーになっており、カニージャがブラジル・ゴールにシュートを流し込んだ。

 こうした相手を出し抜くような勝ち方が、アルゼンチン人は大好きなのだ。正攻法で真っ向から攻めて圧倒的に勝つよりも、そういう勝ち方が好きなのだと言われている。相手がイングランドで、神の手で勝った試合も忘れられない。

 従って、メキシコに押し込まれながらもDFが耐えに耐えて、メッシの一撃で試合をひっくり返すような勝ち方はアルゼンチンでは好意的に受け入れられるはずだ。

「カウンタープレス」のようなさまざまな戦術が現われては消えていく。「ティキタカ」がもてはやされていたのは、10年ほど前のことである。当時は、「ティキタカ」が絶対の真理だと思われていた。

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