■今では考えられない光景

 そう、彼らは世界最高峰の大会であるワールドカップを見学に来ていたのです。スペインのローカルチームと3試合を戦った後、マドリードで決勝戦を観戦することになっていました。スペインのチームとの3試合のうち2試合は30分ハーフ。完全に練習試合といった扱いですね。

 なお、その後、日本代表はルーマニアに渡って同国代表と戦いました。0対4、1対3で連敗を喫したのですが、当時、日本代表がヨーロッパの代表チームと試合をすること自体、大変に珍しいことでした。日本代表はルーマニアから西ドイツに転戦してクラブチームと5試合戦いました。

 当時の監督は森孝慈さん。GKに田口光久さん。その他、加藤久さんや金田喜稔さん、木村和司さん、原博実さんなど、今から思うと錚々たる顔ぶれが並んでいます。

 で、マドリードに到着した日本代表選手たちは決勝戦を観戦しようと思ったのですが、もらった入場券はスタンド最前列の席だったので、「これでは試合がよく見えない」というので、彼らは自分たちが持っていた入場券を売って、もっと良い席の入場券を手に入れようとしていたというわけです。

 日本代表選手がワールドカップを見学に来て、そこで“ダフ屋行為”をするなどというのは、今では考えられないこと。「ワールドカップでベスト8を狙う」なんて、夢のまた夢という時代の出来事でした。

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