■イングランドでのレアケース

 それに近い状況ならあった。それも世界に冠たるプレミアリーグで。2002年のバーミンガム対アストンビラ。同じバーミンガム市の不倶戴天のライバル同士の対戦である。0-1で迎えた後半32分、自陣奥の右でアストンビラはスローインを得た。スウェーデン人DFオロフ・メルベリはフィンランド人GKペテル・エンケルマンに低いボールを送った。もちろん、通常の投げ方で、である。難しいボールではなかった。しかしボールはエンケルマンの足の下を通り抜け、そのままゴールに転がり込んだのである。アストンビラはこの後もう1失点を喫し、0-3で敗れた。

 主審デービッド・エラリーはエンケルマンの足がわずかにボールに触れたと判定、バーミンガムのゴールを認めた。エンケルマンは「触れていない」と主張したが…。エラリー氏は引退後IFABの重要メンバーとなり、近年ではビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)の開発と、そのためのレフェリーのトレーニングの中心的人物になっている。もし2002年の時点でVARがあったら、得点に関することなので、エンケルマンの足がボールに触れたかどうか、詳細な映像チェックが行われるはずだ。そしてこれは「事実」の問題なので、「VARオンリー」のチェックになる可能性がある。

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