■ロングスローの発達

 「ロングスロー」と言うと引き合いに出されるのが、いわゆる「ハンドスプリング・スロー」だ。英語では「フリップ・スロー」と呼ばれる。長い助走距離をとり、まず両手にもったボールをグラウンドにつけてその反発力を生かして前方宙返りを行い、その勢いのままボールを投げるのである。

 「発明者」は、トニー・ヒンドマンというアメリカ人プレーヤー。高名なコーチのシェラス・ヒンドマンの息子だが、この技術は父からではなく、体操選手だった母親からヒントを得たものだという。母親は少年時代のトニーにタンブリング(跳躍や回転など)を教え込んだのだ。

 2018年ワールドカップのグループステージ、スペインと対戦したイラン。DFミラド・モハマディは、終盤に「フリップ・スロー」を試みた。だがカザンのスタジアムには十分な助走をとるためのスペースがなく、前方宙返りをしたところで投げるのをやめた。

 彼の兄弟ではないが、同じイラン人のDFナデル・モハマディは国内リーグの試合で「フリップ・スロー」で50メートル以上を投げ、話題になっている。2020年にはこのスローインで得点を記録したこともあるという。ハーフライン近くからのスローインがライナーで飛んできたのにパニックになった相手チームGKがボールに触れてしまったのだ。

 ちなみに、スローインの飛距離世界記録はアメリカ人がもっており、マイケル・ルイスという選手が2019年4月に記録した「59.817メートル」だという。もちろん、「フリップ・スロー」による記録である。もっともこれはサッカーの試合中の話ではなく、「記録挑戦会」で生まれたものだった。マイケル・ルイスがどの程度の「サッカー選手」であるのかも明らかではない。

 アメリカでは女子大学生選手も「フリップ・スロー」を使っており、ある選手はボールグラウンドに置き、その横に両手をついて前方宙返りをしながらボールを拾い、投げるという「超絶テクニック」も開発した。

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