レノファ山口DF渡部博文の引退セレモニーが行われた。本人が驚きの引退理由を明かすとともに、自らの辛さを乗り越えて周囲の人々を思いやる男前なスピーチに、感動の声が広がっている。
山口は今月4日、渡部の今季限りでの引退を発表した。ただし、本人からのコメントは添えられず、経緯については引退セレモニーで渡部から話されるとの旨だけが伝えられていた。
23日、山口はJ2最終節でジェフユナイテッド千葉と対戦。開始8分で先制したものの、後半に3ゴールを奪われ、ホームのファンの前で1-3で敗戦。22チーム中16位で、今季のリーグ戦を終えた。
試合後には渡部と、同じく今季限りでユニフォームを脱ぐ菊地光将の引退セレモニーが行われた。その場で、ついに渡部が引退理由を明らかにした。
「シーズン当初から目が見えづらくなり、日常に支障はないのですが、思うようなプレーができなくなってきました」
本人の口から、驚きの言葉が紡ぎ出された。検査や目のトレーニングをしてきたが回復せず、ついにはスパイクを脱ぐことを決意したという。
「サッカーには、そして人生にはこのように、ケガであったりアクシデント、そして辛い出来事というのは付き物だと思います」。渡部は語り続ける。
そう話すのには、理由がある。小学生の頃に1年間ほど、サッカーができない時期があったという。その辛い時期、渡部は自分の夢を見つけた。初めて見たプロの試合で、プレーのスピードや迫力に驚き、「必ずサッカー選手になるんだ」と心に決めた。
ただし、まだ十分に体を動かせる状態ではなく、成長の術を自ら考えたという。先輩や仲間たちのプレーを研究し、自らの血肉に変え、ついにはプロの世界にたどり着いた。
その努力家が口を開く。「つまり、何が言いたいかというと」。そう話した後、しばらく言葉が出てこなかった。
「自分にとって良くない出来事というのは、ある意味、人生のチャンスなんじゃないかと思います」
今回の引退も、納得するのは難しいだろう。それでも、そんな機会だからこそ、「自分が変われるチャンスだととらえ、行動してきたことで、また新しい道や次のやるべきことが見えてくるのだとサッカーを通して学びました」と話し続けた。その思いは、今後の人生においても変わることはない。