■人生における不思議な出会い
というわけで私にとっての初の海外は、6月12日夕刻のフランクフルトで始まる。中央駅に近い小さなホテルにはいったのは午後8時過ぎ。食事をとったのち、ホテルの1室で編集長、Tさん、Yさん、私と、2人のカメラマンをまじえて打ち合わせが始まったのは、なんと午前0時だった。議論は熱し、ときに大声が出るようになる。
すると突然、部屋の壁が強くドンドンと叩かれ、やがてドアを強くノックする音がする。Tさんがドアを開けると、そこに立っていたのは、英国人のカメラマン。「うるさくて寝られないから静かにしろ!」と怒鳴っている。おっしゃるとおり。以後小声で話すようにして、就寝できたのは午前3時のことだった。
「ピーター・ロビンソンだよ」。隣室の英国人が去った後、Tカメラマンが教えてくれた。英国の有名なフリーランスのカメラマンらしいが、性格が狷介で、日本人カメラマンを良く思っていないと聞かされた。その彼が、後年、聡明な日本人女性と結婚して性格まで一変して穏やかになり、私とも非常に仲の良い友人になる。人生は不思議だ。
だが、翌日、バルトスタジアムで行われた開幕の「ブラジル×ユーゴスラビア」で私が睡魔と戦い続けなければならなかったのは、時差ぼけと睡眠不足が重なっただけではない。試合が恐ろしく退屈だったことが最大の原因だった。降りしきる雨のなか見た開幕戦。常に太陽とともにあった(欧州へのテレビ放送のために夜間の試合はなく、日中の試合ばかりだった)4年前のメキシコ大会とはずいぶん違うなというのが、「ワールドカップ初体験」の私の感想だった。