大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第89回「オフサイドはなぜ反則か」(1) エリート養成所が嫌った「ひきょうな行為」の画像
中村敏雄さんの名著『オフサイドはなぜ反則か』

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、あの「不可解なやつ」―。

■選手も観客もいらだつルール

 戦後日本の「スポーツ学」、なかでも「スポーツ・ルール学」をリードした中村敏雄さん(1929~2011)の名著のひとつに、『オフサイドはなぜ反則か』(1985年三省堂刊)がある。試合中に「なんでこれがオフサイドなんだよぉ!」とか、「え~! オフサイドじゃないのぉ?」と叫んだ経験のある人は、サッカー選手とサッカーコーチとサッカーファンを合わせた数だけいるだろうが、オフサイドがなぜ反則なのかと考え、掘り下げた人はそう多くはないだろう。

 オフサイドは英国で誕生した「フットボール」という競技だけにあるルールだと、中村さんは説明する。フットボールから派生した競技はいくつもあるが、そのいくつかではこの不可解なルールが廃止され、あるいはごく限られた状況にだけ残されている。しかし「フットボールの双子の長男」ともいうべきサッカーとラグビーでは、依然としてこのルールが残され、近代スポーツ競技として成立してから1世紀半を経ても、選手たちに苦労を強い、観客にフラストレーションを与えている。

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