■オフサイドに秘められた精神

 ではどういう状態を「離れている」と決めたのだろうか。答えは単純だ。「ボールより前」にいる状態である。当時のフットボールは、ボールを先頭に押し立てて相手ゴールに向かってけったりドリブルで突き進んでいる競技だった。何かの拍子にボールより前に出てしまったら、自分より後方の味方がプレーしたボールをプレーしてはいけないというルールだった。

 「ただし」のその2。「ボールより前にいたらプレーに加わってはいけない」というルールはラグビー校だけのものではなく、19世紀前半に各地のパブリックスクールがそれぞれのルールで行っていた競技にほぼ共通するものだったらしい。ルールがさまざまだったのは、それぞれの学校でフットボールに使えるグラウンドの大きさや形状がバラバラだったためだ。生徒たちは自分たちのグラウンドで楽しめるルール(人数や何を反則にするのか)を考案し、楽しんでいた。

 しかしパブリックスクールはいわば当時の「エリート養成所」だった。生徒たちは、遊び時間といえども、厳しい規律が求められていた。そうしたエリート教育のなかで、遊びのフットボールでも、前に出てボールを待ち受けるという「ひきょうな行為」が不名誉なこととして嫌悪されるようになったのではないかと、中村敏雄さんは推測している。

(2)へ続く
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