■サウジアラビア代表の工夫

 もうひとつの驚きは、ことし1月27日の埼玉スタジアムだ。日本の命運をかけたワールドカップ予選、サウジアラビア戦の試合前である。サウジアラビアも試合前にパス回しをやっていたのだが、アウェーチームがウォーミングアップをする埼スタの南側のエンド、バックスタンド側には、なんと、そのコートの大きさに、目にも鮮やかな白線が引かれていたのだ。

 おそらく幅10センチほどの白いテープを用意し、ペグか何かを打ち込んでピッチに固定したのだろう。たしかにラインは見やすく、試合に近い状況でのウォーミングアップができるだろう。もしかしたら、サウジアラビア代表ではパス回しのゲームで、ボールが外に出たかどうか真剣な争いが行われているのだろうかとも思ったが、まあ、新しいもの好きなコーチがいるのだろう。

 新しい戦術を編み出すには、天才の計算とひらめきが必要だ。しかしトレーニングをより効果的なものにするための新しい用具の工夫は、その仕事に真剣に取り組み、毎日改善しようと考えている者なら、誰にでもできる。トレーニングで使われてきたコーンの歴史をたどってみれば、それがよくわかる。サッカーの進歩やチームの成長は、天才的指導者のひらめきよりも、もしかしたら、コーチたちのそうした小さな工夫から生まれているのかもしれない。

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