■サッカーにはふさわしくない言葉

 2002年ワールドカップでイングランド代表を率いたスウェーデン人監督スベンゴラン・エリクソンは、「サッカーは戦いだ。小さな戦争だ。だからときどき、プレーヤーたちは馬鹿げたことをする」と語った。

 イビチャ・オシムは、ある記者会見で翌日の試合の「戦略」について訪ねられたとき、「戦略(ストラテジー)という言葉は、戦争で使うもの。サッカーにはふさわしくない」と答えた。オシムの気持ちはわかるが、あまり正しい指摘とは言えない。「戦略」に限らず、そもそも、サッカー用語は戦争用語だらけなのだ。

 19世紀後半における近代スポーツとしてのサッカーの発展は、新聞の大衆化と軌を一にしている。新聞はサッカーを伝えることで部数を伸ばし、サッカーは新聞に報道されることで英国社会の重要な側面と認識されていった。だがその新聞記者たちが試合の模様を伝えるために使った語彙の多くが、戦争あるいは軍事の用語だったのである。

 「攻撃」「守備」「両翼」「控え(後詰め)」「キャプテン」「前進」「後退」「スカウト(偵察)」など、新聞記事で1世紀半にわたって普通に使われてきたサッカー用語の多くが、軍隊で使われてきた言葉なのである。

 「チャンピオン」は優勝チームに与えられる称号だが、これはラテン語の「campus」から出ており、本来の意味は「平野」だが、転じて「平野を支配する勇将」という言葉になり、チャンピオンとなった。「トーナメント」も、語源をたどれば、中世の騎士たちが繰り広げた「馬上試合」を意味している。

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