■メディアが気を使うべき言葉に対する感覚

 日本語の記事も変わらない。「楽勝」「苦戦」「激戦」「対戦」「反撃」「駆け引き」「先鞭」「速攻」「作戦」「戦術」「陣容」「つばぜり合い」「口火を切る」「采配」「遠征」など、戦争あるいは時代劇の斬り合いの用語が、平和の象徴であるサッカーやスポーツの記事にあふれていないだろうか。

 サッカーは勝敗を争う「競技」ではあるが、あくまでスポーツであり、けっして戦争ではない。戦争用語や軍事用語がいかに「一般語」として使われるようになっているとはいえ、私たちメディアも、監督やコーチたちも、オシムのように、少し気を使うべきではないかと思うのである。

 希望はある。相手チームを「敵(enemy)」と呼ぶ習慣である。フェアプレーやリスペクトの観点から「相手(opponent)」と言おうという呼びかけが世界中で行われ、その効果が表れ始めているように思う。まだまだ「敵」という言葉を使う人はいるが、どんどん少なくなっているように感じる。

 言葉に対する感覚をもう少し鋭くしたら、スポーツ界だけでなく、ビジネス界、政治の世界など、あらゆる分野で「戦略」などという言葉が大きな顔をして飛び交う状況は変えていけるのではないだろうか。

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