■生涯で最高級の1か月
日本から新さくら丸に乗って東京の晴海埠頭を出発。バンコク経由でシンガポールまでを往復するのです。そして、前半日程の参加者はシンガポールから飛行機で帰国し、日本から飛行機でやって来た後半の参加者がシンガポールで乗船して、やはりバンコク経由で帰国するというスケジュール。往復で約1か月の旅でした。
日当は1万円。船内では食事も三食付きますし、何もお金を使う必要がありません。しかも、最高級の部屋をあてがわれ、さらに毎日シーバスリーガルのような高級ウイスキーが配給されるという破格の待遇。僕の一生のうちでも、たぶん最高の1か月でした。
しかも出番は前半に2回、後半に2回、2時間の講演(東南アジアの歴史)をするだけ。毎日、朝のラジオ体操に出るのが義務でしたが、あとは何もすることはありません。本を読んだり、甲板のデッキで寝そべって海を眺めているだけ。夜になると講師の仲間や手の空いている船員たちと配給になったウイスキーやワインなどを持ち寄って宴会です。
船員たちの話というのは本当に面白いのです。なにしろ、彼らは世界中の港町を回っています。そして、船内で仲間同士で話をする機会も多いはず。体験談を交換し合うのが彼らの日課です。もちろん、話の内容は盛りに盛ってあります。おそらくこの「蹴球放浪記」よりもずっと面白いのではないでしょうか?