大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第80回「敗軍の将、兵を語る」(2)「ミシャは言った。『質問せずにいてくれてありがとう』」の画像
常にユーモラスで温かみあふれるペトロヴィッチ監督(中央) 撮影/渡辺航滋(SONY α9 撮影)

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「試合後のひと仕事」。90分間を過ぎても続く場外での「延長戦」の意義を、サッカージャーナリスト・大住良之が考える。

■ミシャが口にしたオーストリアでの逸話

 浦和レッズを率いていた時代のミハイロ・ペトロヴィッチ監督(ミシャ、現在はコンサドーレ札幌監督)が、大敗した後の記者会見に出てきて、こんな話をしたことがある。

「オーストリアでプレーしていたとき、ある試合で大敗を喫した。ロッカールームで、監督は『こんな試合の後に記者会見などに行きたくない』とつぶやいた。するとひとりの選手がこう言った『監督、0-6で1試合負けるのと、0-1で6試合負けるのとどっちがいいですか』。その言葉を聞いた監督は、気を取り直して記者会見に出ていった」

 私は、監督に意見を言った選手はミシャ本人ではないかと直感したが、確認することはできなかった。

 そのミシャが憔悴しきって記者会見に出てきたのは、2014年の第33節、サガン鳥栖とのアウェーゲームだった。数試合前までは2位ガンバ大阪に勝ち点で5もの大差をつけて首位を走っていた浦和。第32節のG大阪との直接対決で勝てば優勝が決まる状況だったが、終盤に逆転されて敗戦。それでも勝ち点2のアドバンテージがあり、第33節の鳥栖戦で勝てば優位な立場のままで最終節を迎えられるはずだった。そしてもしこの第33節でG大阪が敗れれば優勝決定もあった。

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