■手にしたカメラはカモフラージュ?
カメラマン席に向かうまで、観客席にいたサポーターの前を通り、ボールボーイやチームスタッフ、報道陣の前を通っているのだが、まったくと言っていいほど誰も気づかない。マスクが顔を大きく覆っていることもあるが、“まさかチェアマンがこんな場所に”という思いがあったからだろう。しかも、カメラを顔の前にセットしてシャッターを押せば、より気づかなくなる。あまりに自然な姿だった。
村井チェアマンは説明するまでもなくJリーグのトップである。新型コロナで難しい運営を迫られているJリーグを、素早い判断でけん引している人物だ。20年に、コロナが拡大するやJリーグの中断をいち早く決断。その後、プロ野球との「新型コロナウイルス対策連絡会議」を設立するなど、Jリーグは混乱なく運営されている。政治でトップに批判が集まるのとは対照的な行動力を示していた。
その行動力が、現場を実際に見たいと思わせたのかもしれない。カメラを持ってはいたが、シャッターを切る回数は少なく、選手、サポーター、運営スタッフなどさまざまな場所に視線は向かっていた。現場がどう動いているのかを、実際に間近で見ているように感じられた。カメラを手にしていたのは、周囲に気を遣わせないための、そして、気づかれないためのカモフラージュだったのかもしれない。