■誰もがレッドカードを確信した
映像が流れると、スタジアムの多くを占める湘南サポーターはレッドカードを確信して沸く前に「あー」というため息を漏らした。あー、これはレッドカードだ……というその反応は、サッカーを観に来た人間として中立なものだった。
選手たちもビジョンを眺めていた。危険な形で削られた山本も、広島の選手たちも、湘南サポーターの反応と同じく、あーこれは……という顔になった。
不思議なもので、映像を見るという状況に置かれると人は一瞬だけ第三者になる。
その中で、いち早く行動を起こしたのは湘南ベンチだった。スタジアム中の目がビジョンに向いている中、石原広教と谷晃生が山口智監督のもとに歩み寄って指示を受ける。主審の判定が下されるよりもずっと前から10人の相手に対する戦い方について指示を仰ぐその姿はプロらしいもので、そのまま湘南が押し切って勝利する試合展開になるのだろうと思わせるものだった。
しかし、プロらしさを見せたのは湘南ベンチだけではなかった。
映像のチェックを終えた高山主審がTVシグナルをして柴崎のもとに寄って説明をしながらポケットに手を入れると、広島の選手たちはカードを出される前に猛抗議。「ボールに行ってるじゃん!」と懸命にアピールを繰り返した。