サッカーの世界が大きく変化するかもしれない。名古屋グランパスやアーセナルを率いたアーセン・ベンゲルが、オフサイドルールの変更を提案したのだ。解釈の違いを利用した、この「ベンゲル・ルール」は、果たして正しいものなのか。サッカー取材歴50年以上のベテランジャーナリスト・大住良之が検証する。
オフサイドルールは、その後、「2人制」のままで現在まで続けられている。このルールは「最もシンプルなゲーム」と言われるサッカーのなかで最もわかりにくく、初心者には理解できないことから、「いっそオフサイドをなくそう」などの提案が繰り返し出されてきた。最も大きな「プロテスト」は、「サッカー不毛の地」と言われたアメリカにサッカーのタネを蒔こうとした北米サッカーリーグ(NASL、1967~1984)である。このリーグは独自の「35ヤードオフサイドライン」を設定してゲームを行った。
ゴールラインから35ヤード(約32メートル)のところにタッチラインからタッチラインまでラインを引き、オフサイドはこの範囲内だけでの適用としたのだ。この時代、世界のサッカーは急速に戦術が発展し、とくに1974年にオランダが「トータルフットボール」を実現して世界を驚かせると、チームをコンパクトにして相手への圧力を高めるサッカーが主流になりつつあった。そうした時期に、NASLの「35ヤードオフサイド」のルールは、中盤を広げ、個人技を十二分に発揮できるスタイルでもあった。だがNASLに追随するリーグはなかった。