■FIFAとIFABの拙速

「ロマリオ・ルール」はかなり大きな「解釈変更」だったが、今回の「ベンゲル・ルール」ほどの革命的な変化ではない。これまでは「(相手より)出ているかどうか」が問題だったが、今回は「体のどこかが相手のラインより後ろに残っているかどうか」が問題となり、プレーヤー、観客が混乱するのはもちろん、最も大きな影響を受けそうなのが副審である(だからベンゲルは機械にオフサイド判定を任せようというのだろうか)。

 そしてまた、守備側にとっては、マークの仕方や立ち位置などを従来のやり方から大きく変えなければならなくなる。これまでは「ぎりぎりオフサイドかどうか」という状況で突破されても、まだ守備のチャンスがあった。来年からは、「ぎりぎりでオンサイド」という状況から突破された場合、守備側はもう守るチャンスが与えられないだろう。その結果、「得点が増え、ファンを喜ばせる」というベンゲルが目指す姿ではなく、逆に守備的なサッカーが横行するのではないかという見方もある。

 何よりも大きな問題は、IFABやFIFAが、十分な検討や試験導入期間を経ずにこうした大きなルール変更を断行しようとしていることだ。少なくとも、世界的な意見交換などは行われておらず、一部の人間の一方的な思い込みでこれほど重要な、いわば「百年ぶりのオフサイド革命」が、ワールドカップをさらにショーアップさせるために断行されるのは、どう考えてもおかしい。

 そしてベンゲルは、そのうえにさらに「オフサイド判定の機械化」まで実現されそうだと有頂天になっているのだ。VARと同様、オフサイド判定の機械化が近い将来に不可避であるとしても、これほど拙速に実施する意味がどこにあるのか。FIFAの「看板商品」であるワールドカップのエンターテインメント化だけを考え、世界のサッカーが混乱しようとお構いなしというなら、現在のFIFAやIFABには、サッカーという「人類のゲーム」を導く資格などない。

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