サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「大会のシンボル」。ワールドカップのポスターについて、サッカージャーナリスト大住良之がひも解く。
1934年のイタリア大会のポスターにはボールをける選手が描かれている。デザイナーはジノ・ボッカジーレである。「デスメ」というデザイナー会社が制作した1938年フランス大会のポスターは、地球の上にボールが置かれ、それを選手の右足が押さえつけている構図である。「サッカーが世界を覆う」という未来図を描いたものらしいが、このころ、ナチスドイツは欧州各国を相手にいつ戦争を始めてもおかしくない状況になっており、何やら選手の右足が「軍靴」のような雰囲気ももっている。
戦争が終わっての最初の大会、1950年の第4回ブラジル大会のポスターは、一転して明るい雰囲気があふれている。選手のソックスに参加国の国旗が描かれ、平和な時代の「世界大会」であることを強調している。この大会の開催は、1946年7月にルクセンブルクで開催された戦後初のFIFA総会で決められたが、同時に大会の正式名称に「ジュール・リメ杯」を加えることも決まり、ポスターには、「TACA JULES RIMET」の文字が見られる。当初1949年に開催されることになっていたが、予選の日程に無理が生じそうだったため、1950年に延期された。当初の予定どおり1949年に行われていれば、次回以降の大会も1年ずつ早まっていたことになる。
続く1954年スイス大会のポスターでは、第1回大会に次ぎ、GKが登場する。しかしこのGKは、第1回大会の「顔なしGK」とは違い、残念ながらボールを止めきれず、ネットに突き刺さるのを見送る形になっている。GKの目は、どこか悲しそうだ。