■楽観的な空気を経験で跳ねつけられなかったのか
正直に告白すれば、オマーンには勝つだろうと考えていた。まさか負けるわけがない、と思っていた。9月2日の吹田スタジアムへ向かう僕は、特別な緊張感に包まれていなかった。
だから、オマーンとの最終予選初戦に0対1で敗れたチームが、「ピリッとした雰囲気が欠けていた」とか「試合の入りからふわっとしていた」といった批判を受けるとしたら、まずは自分自身を責めなければらなない。ほかでもない自分自身がそうだったからで、森保一監督と選手たちを一方的に糾弾することはできない。
そのうえで言わせてもらえば、最終予選なのである。
2次予選までとは違う種類の戦いになることを、多くの選手たちは経験として理解している。5年前の最終予選では初戦でUAEに苦杯をなめたが、今回のオマーン戦のメンバーでは酒井宏樹と吉田麻也がその試合に出場しており、原口元気は途中からピッチに立った。植田直通と遠藤航も、ベンチから試合を見つめていた。長友佑都と川島永嗣は、10年W杯からアジア最終予選を戦ってきた。権田修一、柴崎岳らも、最終予選の難しさを皮膚感覚で知る。
だとすれば、弛緩した空気を近づけることなく、試合の入りから熱量で相手を上回ってほしかった。フィジカルで相手に劣っていたとしても、メンタルでカバーできる部分はあったはずだ。あるいは、メンタルさえも疲弊していたのかもしれない。
吹田スタジアムには4800人強の観衆が集まったが、声を出しての観戦はできない。サポーターの叩く太鼓と拍手が響いていたが、そのすき間からピッチ上のコミュニケーションがスタンドにまで届く。
メインスタンド上段の記者席では、オマーンの選手たちの声が聞き取れた。日本の選手の声は少なかった。誰かが声を出して周囲の選手が応える、といったやり取りは限定的だった。互いを鼓舞するような声掛けは少なく、それもまた、チームの熱量が上がらなかった一因だろう。熱量が上がらないからインテンシティが高まらず、球際の攻防で優位に立てなかった、と言うこともできる。