■あのペレやボビー・ムーアが本気でプレー
だが今回私がお勧めしたいのが、『勝利への脱出』(1981年米英伊合作、ジョン・ヒューストン監督)である。こんなにすごいサッカー映画は前にも後にもない。なにしろ、『ロッキー』のシルベスター・スタローンと、あのペレ、ボビー・ムーアといった世界的なサッカーのスターが目いっぱい共演しているのだ。
あらすじを書いてしまうと、これから見ようという人の意欲をそこなってしまいそうだが、サッカーファンとしての映画の見どころは「脱出」そのものではなく、本物のサッカー選手たちの演技やプレーにあるので、気にせずに書いてしまうことにする。
時は第二次世界大戦の最中。ドイツ国内のある捕虜収容所。収容所幹部として着任したドイツ軍少佐が、収容所内で捕虜の楽しみとして行われているサッカーに目をつける。そしてそのコーチ役がウェスト・ハムの有名選手であったことを知ると、彼にドイツ軍チームとの親善試合の開催をもちかける。
「選手の多くは素人だし、こんなに栄養状態が悪く、シューズもウェアもない状況で試合なんかできない」と断る英国人コーチ(英国軍少尉)の「ジョン・コルビー」に対し、ドイツ軍少佐「カール・フォンシュタイナー」はそのすべてを与えることを約束し、試合開催が決まる。実はこのフォンシュタイナー大佐、1938年のワールドカップに出場した元ドイツ代表選手なのである。コルビーは試合に備えて選手の選考を始める。「栄養のある食事付き」という条件に、英国人だけでなく、さまざまな国籍の捕虜が集まる。
そのなかにひとり、まるで素人の男がいる。それがスタローン演じる「ロバート・ハッチ」というアメリカ軍大尉だ。彼は彼自身が立てた収容所からの脱走計画を実行するためにはこのチームにはいる必要があり、サッカー未経験ながらセレクションに押しかけたのだが、当然のように断られ、最後は強引に「トレーナーとして採用しろ」と迫り、ようやく受け入れられる。