■「ベッカムのように曲げろ」
オリンピックのサッカーはいよいよメダルを賭けたクライマックスだが、新型コロナウイルスの猛威はオリンピック熱とともに燃え上がり、昨年以上に「夏のレジャー」にはほど遠い季節になってしまった。こんなときは、家で映画でも見て過ごすしかないかもしれない。
サッカーはこの地球上で最も人気のあるスポーツだが、その割にサッカーを題材にした映画はそう多くはないように感じる。英国ではフーリガンにまつわる映画がいくつかあるが、1980年代のフーリガンは社会問題に深く根差し、絶望感をもった若者が中心になっていたため、映画として描きやすいのではないだろうか。
非常に異質で、娯楽性という面で抜群なのが、『少林サッカー』(2001年香港、チャウ・シンチー=周星馳監督)だ。少林拳とサッカーをミックスし、CGをふんだんに使ってとんでもないテクニックを駆使、痛快なアクションコメディーとなっている。
私が好きなのが、『ベッカムに恋して』(2002年イギリス、グリンダ・チャーダ監督)である。インド系の女性監督チャーダの出世作で、インド系の少女が保守的な母の反対にもめげず、サッカー選手になる夢をかなえるという作品である。女子サッカー選手の夢と、現在のように女子サッカーというものが広く認知されていない時代に彼女たちが直面した困難を率直に描いているところが、私はとても気に入っている。
ただ、この日本語タイトルは気に入らない。日本で公開されたのは2003年。前年のワールドカップでイングランドのMFデビッド・ベッカムが年代を問わず日本女性の心をわしづかみにしてしまった直後だったから、「恋して」というようなタイトルにしたのだろうが、原題は『Bend It Like Beckham』(ベッカムのように曲げろ)。主人公である18歳の女の子の部屋には、たしかにベッカムのポスターがあったが、それは純粋に「フットボーラー」としてのあこがれであり、恋心を抱いていたわけではない。このあたり、女子サッカーというものが認知されていなかった当時の日本の「雰囲気」もよく伝わってくる。