■「プレーのキャンセル」と「逆の角度でのパス出し」
川崎らしいプレーとは何か……。
たとえば「プレーのキャンセル」。パスを出そうとした瞬間、相手DFが反応してパスコースを切られたり、パスの受け手がマークを受けた時には、すぐにプレーの選択を切り替える。この判断力こそが、川崎のあの正確なパスワークを支えているのだ。
だが、キックする瞬間にパスという選択をキャンセルして、次のプレーに移ることはそれほど易しいことではない。橘田のようなスピードの中でプレーする選手にとってはなおさらだろう。だが、橘田は千葉戦で「キャンセル」を簡単に行っていた。
あるいは、体の向きとは逆の角度でのパス出し。
前半の10分頃、バイタルエリアに進入した橘田が左の家長からのパスを受けた瞬間、橘田の体は半身に開いており、右サイドにパスを送るのが“順”の選択だった。だが、橘田は体の向きはそのままで左斜め方向の脇坂に意表を突いたワンタッチパスを出したのだ(脇坂がさらにレアンドロ・ダミアンにはたいたが、ダミアンのシュートはゴールポスト左に外れた)。さらに、中盤で相手のミスでこぼれてきたボールを拾った瞬間に前線のフリーになっていた選手に鋭いパスを送る(田中碧のような)プレーも橘田はこなしていた。
橘田の千葉戦でのプレー、あるいはこのところボランチとして活躍している谷口彰悟を見ていると、田中や三笘がチームを離れたものの、川崎の戦力はそれほど落ちないように思える。さらに、どこのポジションでもこなせてユーティリティー性の高い山村和也も出場機会を増やしており、川崎の強さは盤石のように見える。
そんな中で、川崎の中盤にこれまでなかったスピード感とモビリティーをもたらすであろう橘田の存在にも注目したい。
そんな川崎の試合を見た翌日にU―24日本代表が黄色チーム(南アフリカ)に手こずっているのを見て、僕は川崎の試合、橘田のプレーを思い出したのだ。日本代表の中盤にも、あのようなスピード感を持って動けるMFがいたら攻撃力がかなり上がるだろう。