■橘田健人(川崎)の打開力に可能性を見た
僕は、南アフリカとの試合を見ながら、前日に見た試合のことを思い出していた。
天皇杯全日本選手権の3回戦。川崎フロンターレ対ジェフユナイテッド千葉の試合である。日本対南アフリカ戦と同じように、青チーム(川崎)がボールを握り続けたが、再三のチャンスを黄色のチーム(千葉)が防ぎ続ける。5バック気味でゴール前に青チームの選手が飛び込んでくるスペースを作らずに、分厚く守っていたのも同じだった。
ただ、南アフリカとは違って、千葉はタイミングを見て攻撃を仕掛けてきた。5バックから3バックに切り替えて両ウィングバックが立ち位置を上げ、さらにボールを持てる時間帯にはMFの1人が最終ラインに降りて、CBも攻撃に参加するなど、虎視眈々とカウンターのチャンスをうかがっていたのだ。
そして、後半に入ってすぐ(53分)、千葉が先制ゴールを決めた。左サイドの深い位置にロングボールを入れると、サウダーニャが川崎のプレッシャーに耐えて持ちこたえ、最後はゴール前の混戦の中で見木友哉が放ったシュートがDFに当たってゴールに飛び込んだ。
もちろん、現在J1リーグを首位で独走し、ACLのグループステージを6戦全勝で乗り切った川崎が反撃に移る。だが、結局生まれたゴールは失点のすぐ後に獲得したPKによる1点(60分、家長昭博)だけ。試合は延長戦でも決着がつかず、川崎はPK戦の末、辛うじて次のラウンドに駒を進めたのだ。
川崎は田中碧がドイツのブンデスリーガ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフに移籍。三笘薫のベルギー行きも決まり、この2人に加えて旗手怜央もUー24日本代表に招集されていたので攻撃力が落ちていたのかもしれない。J1リーグの後半戦も、田中、三笘という主力抜きで戦うわけである。
そんな川崎がどんな試合をするのかというのが、それが千葉戦の見どころの一つだった。
川崎の攻撃で輝きを放っていたのは、左インサイドハーフに入った橘田健人だった。桐蔭横浜大学を卒業して今シーズン加入したMFだ。
川崎が獲得したPKも橘田のスピードが生み出したものだ。登里享平がドリブルで左サイドを持ち上がり、ペナルティーエリアの中にスルーパスを送り込んだ瞬間に2列目から走り込んだ橘田のスピードに千葉のDFの対応が遅れて、トリッピングの反則となったのだ。
橘田の中盤でのスピードは試合開始直後から目立っていた。走るスピード。そして、鋭いターン。緩いパスでもワンタッチ目で一気に加速することもうまい。
ゆっくりとボールを回して守備陣にスペースが生まれるのを待って一気にスイッチを入れるというのが、これまでの川崎だったのだが、橘田が入ったことによって、自分たちのパス回しの中から、一気にパス回しのテンポを上げられるようになったのだ。
もちろん、スピードがあるだけでは川崎のMFは務まらない。だが、橘田はそれだけの高速で動きながら、川崎の選手らしいパス回しの技術やアイディアを存分に見せてくれたのだ。