■美しいハーフタイムの風物詩
さて、今回のテーマはピッチへの散水である。しかし土ぼこりを抑えるための水まきでも芝生の養生のための水まきでもない。試合の直前やハーフタイムに、ホームチームの要望に応じて行われる散水である。最近のピッチの多くは、数十の埋め込み式のスプリンクラーがピッチ全面に均等に設置してあり、試合前、ウォーミングアップを終えた選手たちがピッチを去ると、芝生のなかからそのスプリンクラーが立ち上がり、回転しながら水をまいていくのである。
緑のピッチに十数本の真っ白な水柱が立ち上がり、円を描きながら水をまいていく様子は、なかななか美しい。ある人はそれを「噴水ショー」と呼ぶ。私は「水芸(みずげい)」と呼んでいる。
「水芸」とは、江戸時代に生まれた演芸の1ジャンルで、日本髪、着物に袴と裃(かみしも)姿のお姉さんの扇子の先などから華やかに水が噴き上がるという、いわばマジックの一種である。いや、マジックというより、イリュージョンと言ったほうがふさわしいようなスケールの大きな仕掛けなのである。残念ながら私は実見したことはないが……。
それはともかく、なぜそもそも試合の直前やハーフタイムに水をまかなければならないのだろうか――。
私が初めてサッカースタジアムで「水芸」を見たのは、たしか2001年に日本代表がヨーロッパに遠征してスペインでスペイン代表と対戦したときだった。コルドバの小さなスタジアムでの試合だったが、その試合直前に水をまいているのに驚くと、欧州サッカーに詳しい人から「スペインでは常識になりつつある」と聞かされた。