大住良之の「この世界のコーナーエリアから」連載第63回「水芸――クライフが始め、グアルディオラが完成させた?」(1)の画像
浦和駒場スタジアム。2011年に完了した全面改修工事によってピッチに埋め込み式のスプリンクラーが設置され、美しい「水芸」が披露されている。(c)Y.Osumi
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じめじめとした梅雨入りの季節に、浮かない気持ちをからっと晴らしてくれるのが、試合前とハーフタイムにおこなわれる、チアリーダーのはつらつとしたダンス・ショーとスプリンクラーの散水だ。初夏のスタジアムでは、つやつやと水を含んだ芝生のうえを通って吹く涼しげな風が心地いい。FCバルセロナで、パススピードを上げるためにヨハン・クライフが始めた散水が、いまではスタジムで四季を過ごすこの国のサッカー観戦者を楽しませている。

■試合の前にはピッチに散水

 6月13日の日曜日、私が監督を務める女子チームは、練習試合の試合直前にピッチに水をまいてもらった。係員がメインスタンド(といっても、100人ほどが座れる観客席があるだけなのだが……)裏にある操作パネルを開き、スイッチを入れると、両タッチライン外のハーフラインあたり、そして両ゴール裏に設置された散水装置から、まるで消防車の放水のように勢いよく水が飛び出す。放出された水は数十メートルを飛びながら、数分のうちにピッチ全面をカバーする。

 といっても、最近プロの試合で必ずと言っていいほど見かける戦術的目的での散水ではない。1週間以上雨がなく、気温も高い日が続いたため、土のグラウンドはカラカラに乾き、走るともうもうと土煙がたつ状況だった。ここでは、散水は、土ぼこりを抑えることを目標に行われるのである。終了すると、白っぽかったピッチが見事に黒々となる。同時に、ピッチの表面温度を多少は下げる効果もある。

「でも土に水分がはいったのはほんの表面だけ。この天気だと、15分もしたら元のようにカラカラになってしまうけどね」。係員のおじさんにお礼を言うと、彼はそう話した。

 7000平方メートルを超すサッカーグラウンド全面に水をまくには、相当な量の水が必要だ。しかしこの施設では、水資源を無駄遣いしているわけではない。雨水をためておき、使用者が依頼すると、それをまいてくれるのだ。散水ポンプの電気代はかかるが……。

 この施設を使うとき、真夏の暑い時期には、必ずといっていいほど試合前に散水してもらう。選手の子どもたちは、水がまかれることを熟知しており、わざわざピッチに出ていって、水が滝のように落ちてくるところを追って走り回り、キャーキャー言って喜んでいる。当然、着替えも用意している。親がプールなどに連れていく時間がなくても、けっこう楽しい時間を過ごしているのだ。

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