■湿度計で芝生を測ったヨハン・クライフ
目的はパススピードを上げるためだという。もちろん、水浸しになり、いわゆる「水が浮く」というような状態になってしまったら、パスどころではない。水たまりではボールは転がらず、パスなど止まってしまうからだ。しかし芝生が適度に濡れていると、グラウンダーのボールは滑るように走る。
それを始めたのは、1988年から1996年までFCバルセロナの監督を務めたヨハン・クライフだったという。1990年代半ばにバルセロナが圧倒的なパスワークで欧州を制覇するのは、クライフが植えつけたパスサッカーが威力を発揮した結果だった。
その彼が、1990年代のはじめに始めたのがピッチの散水だった。カンプノウ・スタジアムだけでなく、練習場にもスタートの直前に水をまかせてトレーニングを行った。もちろん、彼は芝生の長さにも非常に神経質で、試合の日の芝生の長さを自分の要望どおりにすることを厳しく求めたという。
マンチェスター・ユナイテッドで長く監督を務め、クライフのライバルでもあったサー・アレックス・ファーガソンは、ある試合の前日に、クライフが湿度計をもってピッチのあちこちを歩き、芝生の湿度レベルを計測しているのを目撃したという。
このころのバルセロナは念願の欧州チャンピオンズカップ(現在のチャンピオンズリーグ)を初制覇し、国内リーグも4連覇するなど、「ドリームチーム」と呼ばれていた。レアル・マドリードが「銀河系軍団」をつくる少し前の時代の話である。圧倒的に強かったから影響力もあった。スペインのスタジアムでは、多くのクラブが試合直前に散水するようになった。私が見たコルドバのスタジアムも、その流れのひとつだったのだろう。