■ヘディングについての新たなガイドライン
さて、今回の話のテーマはヘディングである。日本サッカー協会が5月の理事会で「育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期~U-15)」と題された同協会技術委員会と医学委員会がまとめた文書を承認、ただちに発表した。
ヘディングが脳に悪影響を与えるのではないかという指摘は、数十年前から繰り返し行われてきた。そして2019年秋に英国のグラスゴー大学が「元サッカー選手は、認知症などの神経変性疾患で死亡する可能性が一般より約3.5倍高い」という研究成果を発表、一挙にヘディングに対する認識が変化した。そして欧米では、年少のプレーヤーがヘディング練習する回数を制限する動きが一般化してきた。日本サッカー協会のガイドラインも、グラスゴー大学の研究結果を受けてのものである。
ヘディングの危険性については、2つの側面がある。
ひとつは、頭部を使ってサッカーボールを強く打つことによって蓄積される脳のダメージである。横浜F・マリノス、ジュビロ磐田、浦和レッズなどでDFとして活躍、2019シーズンで引退した那須大亮が、引退理由のひとつとして「ヘディングすると脳が揺れるような感覚に襲われた」ことを明かし、大きな話題になった。
那須が言うようにプロ選手にも危険があるのなら、なぜ欧米各国や今回の日本サッカー協会のガイドラインが年少のプレーヤー(15歳以下)だけを対象にしたものなのか。その理由(年少者には危険だが、大人のプレーヤーにはそうではないという理由)は明らかにされていない。これは、グラスゴー大学の発表がまだ十分に検証されたものではなく、反対の意見をもつ研究者も多いことから、とりあえず試合中にヘディングが多くはない年少者から練習での回数や使用球を制限することにしたということのようだ。