■ボールだけではないモルテンの世界
そこで開発に当たったモルテンの田中政行さんは、国際審判員の西村雄一さんの協力を得てブブゼラに負けない強い音が出せるホイッスルづくりにまい進した。形式はコルクのない「ビートホイッスル」である。共鳴管の長さを0.1ミリ単位で削って調整しながら100個以上の試作品をつくり、2年間の開発期間を経て2009年10月21日に発売にこぎつけた。
上下に2つの共鳴管を備え、異なる高さの音が干渉することによってできる「うねり」を、巨大スタジアムで開催されるサッカーの試合に適したものにした「バルキーン」は、音の立ち上がりが速く、4オクターブもの音を発生させるという。吹くのが少し難しいらしいが、腹式呼吸で吹くことによって、「理想のサッカー主審ホイッスル」になるという。さらにカードやペンを使いながらもホイッスルを手から落とさず、必要なときにはさっと口にもってくることができる「フリップグリップ」も開発。いまではJリーグの公式ホイッスルとなっている。
ちなみに「バルキーン」とは、モルテンの造語で、オランダ語の「鷹」を意味する「VALK」と英語で「鋭い」を意味する「KEEN」を結びつけたものだという。
その後、モルテンは、「バルキーン」ほどの大音量を要さない試合の主審のためにと、2014年に「ドルフィン」(形がイルカに似ている)というモデルも発売した。これも「ビートホイッスル」である。そしてサッカー用だけでなく、各種の競技用、そしてコーチング用、体育授業用など、さまざまな用途に応じた何十種類ものホイッスルを製造販売し、ボールだけでなく、モルテンは「ホイッスル・ワールド」も席巻する勢いだ。