後藤健生の「蹴球放浪記」連載第58回「サッカー旅は肉食系」の巻(1)の画像
アルゼンチンW杯決勝戦のチケット 提供:後藤健生
全ての写真を見る

かつて三浦知良が、日本にいるときは小柄だったのに、ブラジルに渡って食事が変わったら、みるみる体が大きくなったと語っていた。スポーツ選手にとって肉を食らうことはそれほど大切なことであるようだ。世界を旅するサッカー・ジャーナリストもまたしかり。1978年アルゼンチンW杯から2004年のチェコ旅行まで、サッカー旅は無垢な日本人青年をこれだけ鍛え上げた――。

■僕の肉食事始(ことはじめ)

「サッカーというスポーツは肉食人種の(狩猟民族の)スポーツだから、農耕民族の日本人には向かない」という“俗説”があります。日本のサッカーがどうにもならないくらい弱くて、アジア予選を勝ち抜けずにワールドカップにもオリンピックにもまったく出場できなかった1970年代から1980年代くらいにできた“俗説”です。「日本がなぜ弱いのか」を説明するために当時のライターからひねり出された“俗説”ですが、いまだにその亜流のようなことを言っている人もいるようです。

 これははっきり言って嘘です。日本が弱かったのは農耕民族だったからでも、肉食でなかったからでもありません。ただ、ボール扱いが下手だったからです。日本では子供たちがサッカーをしていなかったし、サッカー部に入っても間違った指導法が横行していたからというだけのことです。そうした問題点が次々と改善されてきた結果、今では日本のサッカーはワールドカップで何度もラウンド16に進出するほど強くなりました。

 だいいち、ヨーロッパ人は狩猟民族ではありません。日本人と同じように、1万年前から農耕民族でした。違っていたのはこちらでは稲作、あちらでは畑作が中心だったことと、日本では牧畜をあまりしていなかったことくらいのことでしょう。

PHOTO GALLERY 全ての写真を見る
  1. 1
  2. 2
  3. 3