J1リーグの首位を走る川崎フロンターレと追走する名古屋グランパスの中4日の連戦。4月29日は川崎の圧勝でファーストレグを終えた。しかし、スコアに表れるほどに、その差は大きくなさそうだ。フロンターレの強さはどれほどなのか。勝負を分けた最大の要因は何か。静かなスタジアムに響き渡る、キックの音色を手掛かりに探った——。
■底深いスタジアムにキックの音が響き渡る
黒川紀章氏が設計した豊田スタジアムの2階席は最大で38度もの傾斜角を持つ。高所恐怖症の人はスタンド上部に行ったら足がすくんでしまうかもしれないが、俯瞰的に試合を見ることができるので僕はこのスタジアムが大好きである。そして、四方を急傾斜のスタンドに囲まれているため、このスタジアムではピッチ上の音がよく反響する。とくに、現在はコロナウイルス対策で声を上げての応援が禁止されているため、名古屋グランパス対川崎フロンターレの一戦では試合開始と同時に「ボッ!」、「バスッ!」とボールを蹴る音が響き渡った。
ほとんどが川崎の選手たちが繰り出すパスの音だった。
フロンターレといえば、細かくショートパスをつなぐというイメージが強いだろう。だが、そういうパスであれば、たとえ豊田スタジアムであっても音は聞こえないはずだ。
しかし、この日の川崎は速くて、強くて、深いボールを駆使して攻撃を展開した。
キックの瞬間に響き渡る「ボッ!」、「バッ!」という音。それが、この試合に懸ける川崎の選手たちの“意思”を表しているように僕には思えた。