■いつもと違った川崎のキックの音色
開始3分。この日はインサイドハーフで先発した旗手怜央が早くも名古屋のゴールをこじ開けた。左サイドから三笘薫が入れたスピードのあるグラウンダーのクロスをレアンドロ・ダミアンが浮かせ、浮いたボールに旗手が正確に合わせて叩いたものだ。
川崎の速くて深いパスが効果を発揮するのは、この後だった。
8分にはハーフライン付近で相手のクリアを拾ったジェジエウが鋭いボールを家長昭博に送り、そこからワンタッチで田中碧、山根視来とつないで山根から左の三笘に速いサイドチェンジが送られた。この場面は、名古屋の守備に防がれたものの、ワンタッチ、ツータッチで長いボールを使った攻撃は迫力満点だった。
さらに10分にはGKのチョン・ソンリョンから右サイドの田中に送られたパスが起点となって2点目が生まれた。田中の右からのクロスはDFによってはね返されたものの、すぐに左サイドバックの登里享平が拾って左サイドに回った家長に展開。家長のクロスをレアンドロ・ダミアンがヘディングで決めたのだ。長いボールを実に効果的に使った攻撃だった。
そして、チョン・ソンリョンから深いボールが送られたことによって名古屋の守備陣は深い位置に押し込まれていたため、登里がクリアボールを拾った瞬間には名古屋の選手は誰もプレッシャーをかけられる状態でなかった。
2点をリードした川崎は、さらに名古屋陣内深い位置にボールを入れて名古屋の選手たちを自陣に釘付けにし、さらに名古屋の選手がボールを奪うとすぐに前線から強烈なプレッシャーをかけて襲い掛かって名古屋がパスを回すのを阻止。名古屋は川崎陣内に入ることができず、ロングボールを使って相馬勇紀やマテウスを走らせようとするが、1本のパスで川崎の守備を崩すことは難しかった。25分には、名古屋のワントップの山崎凌吾にボールが渡った瞬間に登里が山崎に襲い掛かり、登里自身が痛めてしまうような場面もあった。
攻めては速いパスを敵陣深くに通し、守っては相手陣内から強烈なプレッシャーをかけ続ける……。この試合に懸ける川崎の選手たちの強い“意思”が際立っていた。そして、彼らの気持ちを象徴するのが、あの豊田スタジアムに響く「ボッ!」、「ボン!」という音だった。
こうして、川崎はキックオフ直後から攻守にわたって非常にインテンシティの高い試合を展開して23分にもCKからレアンドロ・ダミアンが3点目を決め、この時点で勝敗の行方は完全に決まってしまった。