■何がオーバーヘッド・ゴールを生むのか
オーバーヘッドキックによるもっとも奇妙なゴールは、ドイツとイタリア両国の国籍をもつFWアンジェロ・バッカロによる「PKオーバーヘッド」だろう。2010年、ハンガリーのホンベドでプレーしていたときの話である。同じブダペストのフェレンツバロシュとのダービーマッチ、PKのチャンスを得てキッカーになったバッカロだったが、GKの好セーブで弾かれてしまう。しかしそのボールが自分の背後に上がったのを見た彼は、迷わず振り向いてオーバーヘッドキック。それが見事に決まったのだ。
バッカロのゴールは、ある事実を示唆する。オーバーヘッドキックをしなければならない状況とは何かについての示唆である。身体動作に関する研究で知られるドイツの科学者ヘルマン・シュワメダーは、こんな指摘をしている。「オーバーヘッドキックに必要な3要素、それは『ひらめき』、『勇気』、そして「悪いクロス」」である」――。
1982年ワールドカップ・スペイン大会の準決勝、「セビージャの死闘」と呼ばれたフランス戦の延長後半、2-3とリードされた西ドイツは、左コーナー付近からのピエール・リトバルスキーのクロスをファーポストでホルスト・ルベッシュがヘディングして折り返すと、中央にいたクラウス・フィッシャーは自分のやや後ろにきたボールをオーバーヘッドキックでゴールに送り込んだ。そのフィッシャーも、「すべてのオーバヘッドキックのゴールには、悪いクロスがつきものだ」と語っている。そういえば、ルーニーのオーバーヘッドキック・ゴールを生み出したナニのクロスは、本当はルーニーにヘディングさせようとして送ったものだったのではなかったか……。